マチヘイスケ@アートブロガーの納屋のような場所

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第67回 日本伝統工芸展の話です。

皆さん、こんにちは。

アートブロガーの町平亮です。

 

今日は第67回の日本伝統工芸展の話をしようと思います。

原文は下記の「しまね暮らし」というサイトで掲載しています。

そのうちの[しまねの美術]コーナーで記事を書いています。

shimanekurashi.com

 

本日はその内容をコンパクトに修正・加筆してお届けします。

島根県での第67回展の開催概要は、

2020年12月2日(水)~12月25日(金)までの期間で、

島根県立美術館で行われました。

本展は巡回展となっており、今後は最後の広島県立美術館

2021年2月17日(水)から3月7日(日)まで開催されます。

広島県立美術館

 

日本伝統工芸展へは前回展が初めてですので、まだまだ初心者です。

その鑑賞レポートはnoteで記事にしていますので、良ければ読んでみて下さい。

note.com

 

本展の主催団体で公益社団法人日本工芸会が展覧会を紹介するYouTube番組を公開しています。本日(2/14)時点で確認したら、まだ見られました。入選作品の見どころなどが解説されていますが、工芸作品の全般的な見方の指南も感じられます。

www.youtube.com

出演されている方々は、
中田 英寿(元サッカー日本代表・国立工芸館名誉館長)
内田 篤呉(MOA美術館長・日本工芸会常任理事)
室瀬 和美(重要無形文化財「蒔絵」保持者・日本工芸会副理事長)

なんで中田英寿さん??
最近は日本酒の普及でよくお顔を拝見していましたが、昨年の10月、石川県金沢市に移転した国立工芸館の名誉館長に就任されていたのですね、納得。中田さんは私と同い年なので、サッカー選手を引退されてからの様々な分野でのご活動には驚かされるばかりです。 www.nihonkogeikai.or.jp

  

さて、日本伝統工芸展は各地で開催されますが、その楽しみの一つに地元作家さんの講演会やトークショーなどのイベントがあります。

昨年はちょうど鑑賞日にギャラリートークに参加することができ、七宝作家の方のお話を聞くことができました。あれからもう1年、七宝についての知識はほとんど増えていませんが、作品を直接見るだけではなく、作家の方から制作にまつわる話を直に聞ける機会は限られていますので、タイミングが合えば積極的に参加するようにしています。

※2月17日からの広島県立美術館での展覧会はHPで見ると、各種イベントが中止になっているようですので、事前に確認ください。

伝統工芸作品には、長い漢字の作品名がよく付けられています。いったいどこで区切ればいいのだろうか、そもそも漢字の読み方がわからないということが多々あります。でも、そのタイトルこそが鑑賞の大きなヒントなのです。そこには素材や技法や作品のモチーフなどが書かれており、気になった作品だけでもタイトル名の分解にチャレンジしてみてください。

最近は明治時代以降の工芸作品が(特に超絶技巧と呼ばれるような作品)、注目を浴びています。日本伝統工芸展に出品されている作品は、伝統を受け継いで作られていますが、同じ時代を生きている作家の方々が作った、いわば現代アートと言える作品です。難しく考えすぎずに見に行ってもらえると、きっと楽しめるのではないかと思います。

 

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では、ここからは鑑賞レポートと言いたいところですが、今回は関連イベントとして開催された地元作家対談「山陰の伝統工芸 これまでとこれから」について書こうと思います。

漆芸作家の高橋香葉さん(松江市)と染織作家の松浦弘美さん(松江市)の対談です。

美術や芸術の世界においては作家自らが作品のことを語るのは、良しとする人、そうでない人、いろいろな意見があります。作家自身でも語りたい人、語らない人、さまざまです。ライナーノーツ、あとがき、舞台裏、制作ドキュメント...いろいろな言い方がありますが、私は、それが、好きな方です。漫画家の浦沢直樹さんが企画されている「漫勉」とか、よく見ています。伝統工芸においても然り、と感じました。作家本人の口から語られる表の話と裏の話は、漆芸と染織への入り口がぐっと身近になりました。

 

漆芸作家 高橋香葉さんの話より

高橋さんは漆芸の中で籃胎(らんたい)と呼ばれる手法を使われています。日本工芸会東日本支部のHPに解説があるので引用します(筆者抜粋)。

漆芸とは

まず漆(うるし)の木にキズをつけ、滲み出した樹液を採取し目的別に調整します。
これを接着剤にしたり、塗料として使用しますが、その他に形そのものを造ることもできます。
また装飾材料としても使用されています。漆芸は古来より日本や中国、朝鮮半島や東南アジアなどで発達してきた東洋独自の分野です。特に日本の漆芸は高度な技法が現代に伝えられています。
漆芸はいろいろな素材と道具と様々な技法によって出来上がりますが、ここでは素地、塗り、加飾(装飾)の順に説明します。

素地(きじ)とは

漆塗りをするためには素材を加工し器物(形)にする必要があります。
その器物(形)を素地といいますが、その素材に木材を使った指物・挽物・刳物・曲輪・巻き上げなどの技法を使った木胎があります。また麻布等の布を使った乾漆という素地や竹を編んだ籃胎、紙の紙胎、皮革の漆皮、金属の金胎、陶磁器の陶胎などもあります。

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このように漆芸と一括りにしても、器の素材を何にするかでも随分と種類があります。
登壇者のお一人、高橋香葉さんの本展での入選作は「籃胎存清小箱「青葉若葉」」というタイトルです。
この籃胎(らんたい)は前述のとおり竹を編んで器(今回は小箱)を形成します。しかし竹といっても作家本人が竹ひごから作る場合もあり、特別な鉋(かんな)で厚さを調整していきます。さらに驚いたことに、竹の節の部分は素材として適さないため、節と節の間が長い竹を自ら探しに行くこともあるそうです。

また、染織やほかの分野の工芸品も同じだということですが、お二人ともに強調していた話に作品の耐久性があげられます。美術品としてその美しさを鑑賞することが第一の目的ではなく、あくまでも道具として使えるものになっているかが肝心だという話です。染織でいえば着物として身に付けるうえでの丈夫さ、着こなしやすさなどもしっかりと熟慮して作られています。

どれももちろん展示品なので触れることはできませんが、持ち上げて底を見たり、引っぱってみたり、軽く叩いてみたり、などが出来れば、目立たないけれどもそれぞれのモノとしての土台的な部分に気づけそうな予感があります。

 

染織作家 松浦弘美さんの話より

松浦さんの話でも、まずは前述のように解説を引用します(筆者抜粋)。

 鑑賞の手引き

染めには、友禅・型絵染・江戸小紋長板中形・木版染・絞り染・ローケツ染など。
織物には、紬織(つむぎおり)・錦織(にしきおり)・紋織(もんおり)・羅(ら)・上布(じょうふ)・縮(ちぢみ)・絽(ろ)・縮緬(ちりめん)・綴(つづれ)・風通(ふうつう)など。
他には、組紐(くみひも)・刺繍(ししゅう)・佐賀錦(さがにしき)などがあります。

 

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さらに同サイト内に第62回日本伝統工芸展で初入選をされた際のコメントが掲載されていました。

松浦弘

ほら絽織菱絽生絹着物「風を纏う」(No.269)

ほら絽織は、隣り合った2本の縦糸を、絡み、もじれさせてから横糸を1段織り込み、さらに次の段でまた同じ縦糸を、絡み、もじれさせる織り方です。
つまり1段の横糸の上下に縦糸の絡みによって小さな隙間を作るのです。この隙間の連続模様を菱形にして、着物全体に菱形が浮かぶように織り込んだものが、ほら絽織菱絽です。初めてほら絽織菱絽に出会ってから長い年月が過ぎました。布としての強さと、透ける美しさの相反する願いを手にするために、生絹の精錬や織り方など、自分なりの工夫を重ねて、のめりこみ、追い求めてきました。
とんぼや、かげろうの羽根に憧れます。夏の風を纏い、爽やかにゆれる着物になれば幸せです。

 

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鑑賞の手引きを読んでわかることは、染めにも織りにも種類がたくさんあり、その技法の組み合わせが作家さんの個性となり作品に結実していることです。

前述のコメントでは、「ほら絽織」「菱絽」の技法が説明されていますが、対談ではPowerPointを利用しての説明がありました。機織り機での工程を真上から見た組織図というものが染織にはあり、一見すると楽譜のように思えました。着物をつくるための反物の設計図ですが、素人にはなかなかこの組織図だけでは完成形はイメージできません。「ほら絽織」「菱絽」を文章に頑張って説明してみると、隣合う2本の糸をある地点で交差させていきますが、その間隔・隙間の長さを少しずつ変化させて、「∨」形から「Λ」形へ連続するように縦糸と横糸を動かして菱形を作っていく感じだとお話を聞きながら解釈しました。

 

伝統工芸品を実際に買ってみようと思うと、本当に高価なものは高いです。たとえ手にできたとしても、使っていて壊してしまったらどうしようと、箱に入れたままになってしまいそうな気もします。鑑賞用としてコレクションしていくという楽しみ方もあるとは思いますが、この対談を聞いた後だと使い込んでその良さが分かるのだろうという気もします。伝統工芸の楽しみ方は人それぞれです。

山陰や中国地方にも伝統工芸作家さんがたくさんおられます。その地方に根ざした技法や素材を使った工芸品をこれからも応援していこうと思います。

 

本日は伝統工芸の魅力をほんの少しだけご紹介しました。

最後までお読みいただきありがとうございました。